ビジネスにおけるトスアップとは、主にマーケティング部門から営業担当者へ顧客情報を引き継いで商談につなげるなど、営業プロセスを次の段階へ動かす役割を指します。トスアップを適切に行うことで、営業担当者と見込み客(自社の商品やサービスを利用する可能性のある顧客)の認識のずれを防ぎ、成約率を高めることにもつながります。この記事では、トスアップの意味や、実施する際に意識すべき点、効率的に進めるポイント、トスアップされた商談の質を高めるコツなどをご紹介します。
トスアップとは
トスアップとはもともとバレーボールで使われる用語であり、セッターがトスを上げ、アタックを促す動作を指します。ビジネス用語におけるトスアップは、セッターがアタックを促すように、営業プロセスを次の段階へ進めることを指します。例えば、テレアポ担当者が電話をかけた潜在顧客の中から見込み客の情報をピックアップし、営業担当者に受け渡したり、自身が担当している優良な顧客をほかの部署や従業員に紹介する社内紹介を行ったり、商談の中で顧客とコミュニケーションを取りながら、本題へ入りやすい空気をつくったりする場合など、さまざまな場面でトスアップは行われます。
なぜトスアップが必要なのか
トスアップが必要とされる背景の一つに、営業プロセスの分業化が挙げられます。従来の営業プロセスでは、ターゲットの選定からテレアポ、ナーチャリング(顧客育成)、商談、クロージング、アフターフォローまで、基本的に1人で一貫して行っていました。
しかし、最近では働き方改革の影響や業務効率化を図るために、営業プロセスごとに担当者を分ける企業も増えています。例えば、ターゲットの選定やテレアポを担当するチーム、ナーチャリングを行うチーム、商談からクロージング、フォローアップを行うチームなど、ターゲットとなる企業1社に対して複数のチームが対応します。
このように営業プロセスを複数のチームに分けて進める際には、営業プロセスが進むごとにチーム間でしっかりと情報共有することが大切です。チーム間で顧客情報のスムーズな受け渡しを行うためには、共有漏れがないよう的確にトスアップする必要があります。
トスアップが注目を集める背景
トスアップは、特に専門的な知識が必要な商品やサービスを扱う企業、さまざまな業界の顧客を相手にする企業などで注目を集めています。従来のように営業担当者が1人でターゲットの選定からアフターフォローまで行った場合、多岐にわたる業界の顧客それぞれに合わせたアプローチや、専門的な知識が求められる問い合わせに1人で対応することが難しくなります。
そのため、営業プロセスごとに担当者を分け、トスアップを通じて顧客情報を受け渡すことで、営業担当者1人に掛かる負担を減らし、各営業プロセスの担当者は自身の担当分野に集中して業務を進められるようになります。担当者がそれぞれの分野に集中して業務に取り組むことで専門的なスキルも身につけやすくなり、専門性の高い知識が問われる場面でも的確な対応が可能になります。
トスアップとティーアップの違い
ビジネスで用いられる用語の中で、トスアップと似た言葉に「ティーアップ」があります。ティーアップはゴルフ用語が由来であり、ショットを打つ際にティーペグという道具を使い、地面よりも高い位置にボールを置くことを指します。
営業におけるティーアップは、ティーペグでボールを持ち上げることと同様に、相手を褒めて持ち上げることを意味しています。ティーアップはナーチャリングや商談時に有効な手法ですが、過剰に相手を持ち上げることでかえって不信感を抱かせることにもつながるため、ご注意ください。
営業におけるトスアップとは
営業におけるトスアップでは、テレアポやナーチャリングを行う担当者から商談を行う営業担当者への引き継ぎが、最終的な成約率に影響します。ここでは、各チームと営業担当者の間で適切にトスアップを行うためのポイントなどをご紹介します。
各チームと営業担当者間での連携が重要
営業プロセスにおいて、マーケティング部門やコールセンターなど、複数のチームでアプローチを行っている場合、商談へつなげるためには営業担当者と連携し、情報共有を的確に行うことが大切です。顧客情報や訴求方法、顧客が抱える課題などを抜けのないように共有することで、商談においても顧客それぞれの状況に合わせた効果的なアプローチや提案ができるようになります。
なお、同じ営業部門の中でも、メールや電話など非対面の営業活動を行うインサイドセールスと、顧客のもとへ訪問するなど対面の営業活動を行うフィールドセールスにチームを分けている場合も、トスアップによる連携を強化し、共有漏れがないよう顧客情報を引き渡す必要があります。
マーケティング部門から営業担当者へのトスアップ
マーケティング部門でアプローチした内容や、顧客が興味を示した内容を営業部門に共有します。例えば、マーケティング部門ではサービス導入までの期間やサポート体制の充実度を訴求したにもかかわらず、営業担当者が商談の場では商品の機能の豊富さやカスタマイズ性の高さなどを訴求した場合、顧客が求める商品イメージにそぐわず、失注につながる可能性があります。
トスアップする際に意識すべきポイント
マーケティング部門から営業担当者へトスアップする際には、確度の高い見込み客を適切に絞り込むことが大切です。アプローチを行い、リアクションが得られた見込み客がどのような経路で自社に興味を示したのか、どのようなニーズを持っているのかを分析した上で、商談に応じてくれそうかを見極めます。確度を判断しづらい場合は、アプローチする際に商品やサービスの契約の意思をアンケートで測ることもお勧めです。アンケートを基に見込み客をスコアリング(点数化)し、数値が高い見込み客の情報のみ営業担当者に共有することで、効率よく商談を進められます。
インサイドセールスから営業担当者へのトスアップ
インサイドセールスでは、主に見込み客と非対面で接触しながら、購買意欲を高めます。見込み客の課題やニーズに関するヒアリングだけでなく、見込み客が求める情報をこちらから提供するなど、商談につなげるための関係構築も行います。インサイドセールスでは、見込み客と商談を行った場合、成約に至るかどうかを見極め、確度が高いと判断した場合、営業担当者へトスアップをすることが大切です。
トスアップする際に意識すべきポイント
インサイドセールスでアプローチを行うなかで、自社に対してあまり興味を示さなかった見込み客を商談へつなげてしまっても成約に至る確率は低いため、自社に関心を持っている見込み客を中心に、トスアップする見込み客を選定します。その際、どのようなアプローチをして関心度を高めたのか、自社のどのような点に興味を示しているのかなどをもれなく伝えることが大切です。見込み客の関心ごと以外にも、自社の商品やサービスを導入する上でネックとなる部分や希望条件などがあれば、併せて伝えます。これらのネックや希望条件を営業担当者がカバーできれば、さらに成約につなげやすくなります。
コールセンターから営業担当者へのトスアップ
テレアポを導入している企業の場合、コールセンターから営業担当者へのトスアップも重要です。特に商品やサービスの料金や注意点など、テレアポの段階でどこまで見込み客に伝えているかをトスアップで共有できていなかった場合、商談の場で「思っていた条件と違う」と興味をなくしてしまったり、失注につながったりする恐れがあります。また、ただ商品やサービスの詳細を聞きたいだけの潜在顧客を商談へつなげてしまわないよう、確度を見極めることも意識します。
トスアップする際に意識すべきポイント
コールセンターから営業担当者へトスアップを行う前に、見込み客がどれだけ自社へ関心を示していたかを見極め、アプローチする優先順位をつけます。電話をする際に、見込み客が話をただ聞いているだけだったか、早く切り上げたい雰囲気が感じられたか、向こうから商品やサービスに関する質問があり、積極的に話を聞いてくれたかなどの観点から、商談へつなげる見込み客を判断します。営業担当者へトスアップする際は、「〇〇に関する質問を受けた」「〇〇に興味を示している」「〇〇の情報を詳しく聞きたいと言われた」など、電話で話した内容を明確に共有することが重要です。
なお、テレアポから商談へつなげるアポイントが獲得できた場合は、見込み客に対して、担当者がアポインターから営業担当者に代わる旨を伝えておきます。事前連絡なしに担当者が代わった場合、見込み客が戸惑うこともあるため注意が必要です。
効率的にトスアップを進めるコツ
複数チーム間でのトスアップを効率よく進めるためには、次のようなコツを押さえておくことで、スムーズな連携を目指すことができます。
チーム間で連携しやすい仕組みを整える
トスアップを行う際には、複数チーム間で連携しやすいように仕組みやルールを整えておくことがお勧めです。例えば、マーケティング部門から営業担当者へトスアップする際には、顧客情報、見込み客の流入経路、業界の動向、見込み客が関心を示したアプローチの内容など、あらかじめトスアップ時に共有する内容を設定したり、トスアップする見込み客の基準を定めたりするなどの方法が挙げられます。
社内全体での情報共有の場を設ける
複数チーム間で情報共有を行う場合は、会社全体でも情報共有ができる仕組みを作っておくことで、共有漏れや認識のずれを防ぎ、各チームが共通の認識を持てるようになります。会社全体で顧客情報を把握する際には、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理関係)など、営業活動や顧客管理をサポートするツールを活用することで、多くの顧客情報を全社で一元管理でき、従業員もそれぞれの情報を確認しやすくなります。
社内やチーム内での目標を明確にする
会社全体あるいはチームごとに明確な目標を設定することも大切です。会社全体で定めた目標にひもづくかたちでチームごとの目標を設定することで、各チームにおける目標に大きな差がなくなり、トスアップを行う際にも効率よくチーム間での連携や情報共有がしやすくなり、認識のずれによるヒューマンエラーを防ぐことにもつながります。
各チームでのボトルネックを把握し、補い合う
各チームにおけるボトルネックとなる部分を相互で理解することで、トスアップを行う際にも両者でフォローし合うことができます。各チームのボトルネックが理解しやすくなるよう、どのような流れで成約まで進めるのかを逆算し、それぞれのプロセスで達成しておくべき点や、各プロセスで顧客情報を引き継ぐ際のオペレーションなどを整えておくと、各チームが全体像を把握した上で業務に取り組めまるためお勧めです。
訴求内容を統一する
見込み客の確度を高めるためには、ナーチャリングが欠かせません。そのため、見込み客との関係構築や、競合と比較した優位性のアピール、見込み客が求める情報の提供といったナーチャリングに関するアクションを、各チームで共通の認識を持って取り組むことが大切です。初めにチーム間で、見込み客に自社のどのような部分に興味を示してもらうか認識をそろえた上でアプローチに取り掛かることで、トスアップを行った際も訴求内容の統一感を維持できます。
ターゲットの認識を合わせる
どのような企業をターゲットにするかの認識がチームごとに異なる場合は、トスアップが行われた際も訴求内容にばらつきが出てしまい、営業担当者が想定していなかった企業と商談することになるケースもあります。このような状況を防ぐためにも、マーケティングや営業などの各チームが共同でターゲットを設定するのがお勧めです。経営陣側であらかじめターゲットが定められている場合は、さらに細かくターゲット像を掘り下げたペルソナを設定したり、見込み客が成約に至るまでの一連の行動を図解したカスタマージャーニーマップを作成したりすることで、ターゲットの解像度を高めます。
トスアップされた商談の質を高めるコツ
チーム間でトスアップを行ったものの、共有された内容が想定していたものと異なっていたり、内容が薄かったりなどの課題が生じ、望んだとおりの商談が行えない場合があります。そうならないためにも、トスアップされた商談の質を高めるコツは、次のとおりです。
初めに商談の目的を明確に伝える
商談を始める際には、最初に自身がどのような目的で見込み客に会いに来たか、自社ではどのような商品やサービスを提供していて、何を専門としているのかなどを伝えます。商談を行う目的を見込み客が理解しないまま商談が進むと、「この人は何をしに来たのか」「どのような話をすればいいのか」などの疑問が生まれてしまいかねません。営業担当者へトスアップされる前に商談の目的が共有できていないケースもあるため、まずは見込み客との認識を合わせるためにも、商談を行う目的を明確に伝える必要があります。
トスアップ前に商談の目的を伝えてもらう
商談に臨んだ見込み客が「思っていた商品やサービスと違っていた」と感じて失注に至らないよう、商談へつなげるトスアップの前に、インサイドセールスやコールセンター側で商談の目的を見込み客に伝えることもお勧めです。インサイドセールスやコールセンターが商談につなげられそうだと判断していたとしても、見込み客と認識が合っていなかった場合には、商談でうまくアプローチできない可能性が高いため、このようなミスを防ぐためにも事前に商談の目的を伝えておくことも大切です。
まとめ
この記事では、トスアップを行う際のポイントや効率的に進める方法、トスアップされた商談の質を高めるコツなどをご紹介しました。チーム間でのトスアップが成功することで、商談での成約率も高まる可能性があります。複数のチームにまたがって営業プロセスを実行している場合は、ぜひ記事内でご紹介した内容をご活用ください。