顧客育成は、顧客の自社への関心度や信頼度を高め、商談やアップセル、クロスセルにつなげたり、長期的な関係を構築したりする際に行われます。顧客育成では、メールマガジンやオウンドメディアの運営、SNSでの投稿などさまざまな手法が挙げられますが、顧客分析を行った上で、最適な手法を選ぶことが大切です。この記事では、顧客育成を行うメリットや手法、効果的に行うコツなどをご紹介します。
顧客育成(ナーチャリング)の意味
顧客育成は、ナーチャリングとも呼ばれ、自社の商品やサービスを購入する可能性のある見込み客の購買意欲を高め、購入を促すマーケティング活動を指します。見込み客は「リード」と呼ばれることもあるため、見込み客を育成することを、「リードナーチャリング」と呼ぶ場合もあります。顧客育成にはさまざまなアプローチの手法がありますが、メールマガジンや広告、セミナーなど、顧客の状況や企業の特徴に合わせて最適なアプローチ方法を選ぶことが重要です。
顧客育成は、現時点では自社と取引のない新規顧客を育成し、購買意欲を高める以外にも、すでに取引の経験がある既存顧客をリピーター化させたり、自社の商品やサービスへの貢献度が高い優良顧客と長期的に関係を築いたりする際にも行われます。
既存顧客への顧客育成
既存顧客の育成に向けては、既存顧客の自社への信頼度を高め、優良顧客へとステップアップさせることを意識します。 一般的に、新規顧客を獲得するよりも、既存顧客を育成する方がコストを抑えられるといわれており、自社の商品やサービスを繰り返し購入してくれるリピーターを増やすことで、顧客獲得にかかるコストを削減しながら、自社の売上や利益を向上させることが期待できます。既存顧客の育成では、顧客のリピーター化以外にも、より単価の高い商品やサービスを購入してもらうアップセルや、関連する別商品・別サービスを購入してもらうクロスセルを狙います。
優良顧客への顧客育成
既存顧客の育成によって、優良顧客となった際も、長期的な関係を築くために顧客育成を続けることが大切です。基本的に、優良顧客は自社のことを信頼しており、好感度は高いものの、自社の提供する商品やサービスよりも好条件の商品やサービスを提供する企業が現れた場合、自社から離れてしまう可能性があります。このように、優良顧客が急に自社の商品やサービスを購入しなくなり、売上や利益が低下してしまうリスクを防ぐために、優良顧客にもアプローチを怠らないように意識します。
顧客育成が企業で重要視される背景
顧客育成は、顧客を取り巻く環境の変化などから、多くの企業で重要視されています。顧客を育成し、購買意欲を高めることが重要とされる背景は次のとおりです。
顧客が自ら商品やサービスを比較検討する風潮
従来は、営業担当者が飛び込み営業などで顧客のもとを訪れ、商品やサービスを売り込む営業スタイルが一般的でした。しかし、インターネットやSNSが普及するにつれて、顧客が情報収集しやすい環境が整い、顧客が自ら利用したい商品やサービスを比較検討するようになりました。このような背景から、Webサイト上に掲載する記事やSNSでの投稿、メールマガジンなどで顧客の比較検討を手助けできる有益な情報を発信して、顧客の自社への関心度を高める動きが活発化しています。
成約までのリードタイムの長期化
営業におけるリードタイムは、見込み客の獲得から成約に至るまでの期間を指します。顧客が自ら商品やサービスの比較検討ができるようになったことから、近年ではリードタイムが長期化するケースが増えました。顧客が自社への興味を失ったり、比較検討するなかで他社へ流れてしまったりすることがないよう、長期にわたるリードタイムの間に顧客の関心度を維持するための対策として、顧客育成が重視されています。
顧客に寄り添ったアプローチの実現
多くの企業で類似商品や類似サービスが展開されるようになった昨今では、顧客へのアプローチの仕方や、顧客との関係構築が成約へつながる鍵ともいえます。顧客それぞれが興味や関心を寄せる物事や、求めている情報は異なります。ここで、顧客の企業や担当者一人ひとりに寄り添ったアプローチをしたり、興味や関心に合わせて提供する情報を変えたりすることで、顧客が「こちらのことを第一に考えてくれている」と信頼感を抱き、自社への好感度を高められます。
売上や利益の獲得機会を増やす
先述のとおり、一般的には新規顧客を獲得するよりも、既存顧客へアプローチする方が、営業活動にかかるコストを抑えられるといわれています。自社の認知度を高め、より多くの顧客に自社の商品やサービスを利用してもらうためには新規顧客の獲得も重要ですが、既存顧客や優良顧客を育成し、自社のファンを増やすことで、アップセルやクロスセルを実現できる機会が増え、自社の売上や利益をさらに伸ばせることが期待できます。
顧客育成を行うメリット
顧客育成によって、信頼関係を築いたり、営業コストを削減したりといったさまざまなメリットがあります。顧客育成を行うメリットは次のとおりです。
顧客との関係構築
顧客育成では、顧客が求めている情報や興味、関心の高いニュースやキャンペーン情報を提供することで信頼を寄せやすくなります。顧客にとって有益な情報を定期的に届けたり、こまめにコミュニケーションを取り続けたりして顧客との距離を縮めることで、自社の商品やサービスに関心を抱いてもらえる可能性が高まります。商談へ進む前に顧客との信頼関係を構築しておくことで、最終的な成約率の向上も期待できます。
顧客ニーズや業界のトレンドの理解
顧客育成を行い、顧客それぞれの興味に合わせた情報提供を意識することで、顧客ニーズや業界のトレンドへの理解が深まります。メールマガジンやSNSの投稿などで情報を発信し、顧客の反応を見ながら、どこに関心を抱いているのか、どのような情報を顧客が求めているのかなどを探ることができるため、正確なニーズやトレンドを見つけやすくなります。また、顧客育成によって顧客の反応を得ることで、新商品や新サービスのアイデア出しにも役立つ場合があります。
営業活動のコスト削減
顧客が自ら商品やサービスの比較検討を行うようになったことから、自社から顧客に直接アプローチすることをせずとも、広告やSNS、Webサイトなどを通じて、顧客から自社に対して問い合わせや資料請求といったアクションを起こしてくれる場合があります。顧客育成によって顧客の興味や関心度を高めたり、顧客からのアクションを促したりする施策を行うことで、営業活動にかかるコストや時間、労力などの削減が期待できます。
休眠顧客への再アプローチ
休眠顧客とは、過去に商談や取引を行ったことがあるものの、その後のやりとりが途絶えている顧客を指します。休眠顧客への再アプローチは、顧客の情報をある程度所持した状態でスタートできます。顧客側にも自社のことを認知してもらえている可能性が高いため、新規顧客を開拓するよりも営業活動が進めやすい傾向があります。顧客育成は、このような休眠顧客や、成約には至らなかった失注案件に再度アプローチし、あらためて顧客の関心度を高める際にも有効です。
顧客対応の質の維持
顧客と営業担当者が個人でコミュニケーションを取る機会が多く、営業活動が属人化してしまう課題を抱える企業も多く見られます。一方で、顧客育成の施策にはマニュアル化しやすいものや、デジタルツールを用いることで自動化しやすいものもあるため、顧客対応の質を安定させやすい点が特長です。新人の営業担当者でもスムーズに顧客育成が行える仕組みをつくることで、属人化しがちな顧客対応の質を維持できるようになります。
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顧客育成の主な手法
顧客育成には、Web上で行えるものやメールを用いるもの、オフラインで行う施策などさまざまな手法が含まれます。代表的な手法は次のとおりです。
Webトラッキング
Webトラッキングとは、特定のユーザーがWebサイト上でどのような動きをしているかを追跡することで行動履歴を収集することを指します。顧客が自社のWebサイトに、検索や広告などどのような手段でたどり着いたのか、顧客はPCやスマートフォンなどどのようなデバイスで閲覧しているのかといった情報を追跡することで、顧客が何に興味を持っているのか、どういった情報を求めてWebサイトを訪問したのかなどを把握できます。Webトラッキングで分析した情報を基に、メールマガジンやSNSで発信する内容を工夫するといった活用方法があります。
メールマガジン、ステップメール
メールマガジンやステップメールは、顧客育成でよく使われる手法です。自社の商品やサービスの最新情報や、顧客が興味を持つ物事に関する有益な情報などを定期的に配信することで、継続して顧客と接点が持てるだけでなく、自社への関心度を高めることが期待できます。メールマガジンやステップメールを配信する際は、専用のツールを用いることで、顧客の反応に合わせてメールの配信内容を変更し、顧客の関心度に合わせたアプローチができる場合もあります。
営業支援 名刺管理サービスの「SKYPCE(スカイピース)」の一斉メール配信機能では、顧客ごとにあいさつ文を変更できるため、顧客それぞれに寄り添ったメールを配信できます。また、「SKYPCE」では、管理画面上でメールの開封率を確認でき、効果測定や今後の施策検討にも活用しやすい点が特長です。
ダイレクトメール
ダイレクトメールは、はがきや手紙、チラシなどの紙媒体を用いてアプローチする手法です。紙に印刷するため、メールに比べて、フォントサイズやデザインなどを工夫しやすい点が特長です。業界によってはダイレクトメールが好まれる場合もあるため、顧客に合わせてメールとダイレクトメールを使い分けることも大切です。特に、便箋と封筒を使い手書きで手紙を書くことで、一斉送付ではなく顧客に直接手紙を宛てているという誠意を伝えることができるため、手紙を書く時間を確保できる場合は、手書きするのもお勧めです。
SNS
顧客がX(旧Twitter)やFacebookなどのSNSを用いて情報収集することも、最近では珍しくありません。これらのSNSで自社の商品やサービスに関する情報や、事業に関わる情報を発信することで、自社の認知度向上やブランディングに役立つだけでなく、自社の投稿を閲覧した顧客が自社への関心度や好感度を高めるきっかけにもなり得ます。SNSを通じて自社のWebサイトや問い合わせなどに誘導させることで、営業プロセスを次のステップへ進められる可能性もあります。
リターゲティング広告
リターゲティング広告とは、自社のWebサイトを閲覧したことがあるユーザーに対して表示させる広告を指します。ユーザーの行動履歴を基に、過去に自社のWebサイトを訪れたことのあるユーザーが別のWebサイトを閲覧しているとき、自社の広告が表示される仕組みです。リターゲティング広告を用いることで、一度は自社に興味を持ったものの、離れてしまった顧客を呼び戻したり、自社のことを再度思い出してもらったりすることが期待できます。
ホワイトペーパー
ホワイトペーパーは、顧客が抱える課題を解決するためのノウハウや、顧客にとって役立つ業界の最新情報、自社独自の調査結果、自社の商品やサービスに関する情報などをまとめた資料を指します。有益な情報を掲載したホワイトペーパーを配布することで、顧客の自社への関心度を高め、押し売りのような印象を与えずに顧客育成が行えます。ホワイトペーパーは、さまざまな課題やニーズを抱える顧客に対応できるよう、業界別に複数用意するのがお勧めです。
オウンドメディア
オウンドメディアとは、自社が保有するメディアのことを指します。オウンドメディアでは、疑問や悩みを抱え、検索から自社のメディアにたどり着いた顧客に対して有益な情報を提供します。このような顧客に役立つコンテンツを複数発信することで、「このメディアで発信されている内容は信頼できる」「自社のこんな悩みも相談してみたい」といった信頼感や、興味を抱かせることができます。オウンドメディアに掲載したコンテンツを通じて、ホワイトペーパーのダウンロードや、問い合わせにつなげられる可能性もあります。
展示会やセミナー
顧客の抱える課題やニーズに関するテーマでのセミナーや、顧客の興味関心に合わせた展示会などのイベントを実施する方法もよく用いられます。イベントでは、自社の商品やサービスを紹介する際も、通常の商談に比べて売り込むような雰囲気を抑えられるため、顧客に身構えられることなく自社への理解を深めてもらえることが期待できます。なお、基本的に展示会やセミナーといったイベントはオフラインで行われますが、オンライン展示会やウェビナーといったオンラインでの実施を企画している企業も見られます。オンラインでのイベント実施は、遠方の顧客にもアプローチしやすい点がメリットです。
インサイドセールス
インサイドセールスは、顧客の企業へ直接訪問するのではなく、電話やメールといった手段でアプローチする営業手法です。インサイドセールスでは、先述したメールマガジンやオウンドメディア、セミナーなどの施策を通して、確度の高い顧客に対して、電話で現状のヒアリングを行ったり、メールで追加の資料を送付したりするなどのアプローチを行います。インサイドセールスでさらに顧客の関心度や購買意欲を高め、商談へつなげることで、確度の高い顧客に絞って商談を行えるため、成約率の向上も期待できます。
顧客育成を効果的に行うコツ
顧客を育成し、さらに自社への興味を持ってもらうためには、顧客を理解するために分析を行うことも重要です。顧客育成を効果的に行うためのコツは次のとおりです。
優良顧客の基準や目標値を定める
「どのくらいの頻度で自社の商品やサービスを利用しているか」「どのくらいの金額を使用したか」など、自社で優良顧客と判断する基準値を決めます。優良顧客の基準が定まったら、現状でクリアしている顧客は何社あるのかを算出し、目標値を決めます。基準に満たなかった顧客の数も併せて確認し、「どのくらいギャップがあるのか」「何をすれば基準をクリアできるか」「基準を満たすためにどれだけのリソースを費やすべきか」などを考えることで、リソースの過不足なく顧客育成に臨めます。
顧客をセグメント分けする
企業規模や業界、企業の特徴などのデータを基に、顧客を複数のグループに分類します。セグメント分けした顧客それぞれに合った情報やサービスを提供することで、より顧客に寄り添ったアプローチが実現でき、信頼関係の構築に役立ちます。また、顧客をセグメント分けしておくことで、顧客の傾向をつかんだり、行動の予測を立てたりといった分析や仮説立てもしやすくなるため、今後の営業方針を計画する際にも役立ちます。
CPM分析
顧客をセグメント分けする手法の一つにCPM(Customer Portfolio Management)分析があります。これは「購入金額」「購入回数」「最終購入日からの経過日数」の3つの軸で顧客を分類する手法です。CPM分析を行う際は、「定めた期間内に初回購入実績のある顧客」「定めた期間内に初回購入実績があるものの、離脱してしまった顧客」など、10グループに分類します。分類した10グループそれぞれに属する顧客の購入回数や経過日数に併せて、適切なアプローチ方法を見極めます。
RFM分析
RFM(Recency Frequency Monetary)分析といわれる顧客のセグメント分けする手法もあります。これは、「最終購入日」「購入回数」「購入金額」を基に顧客を分類する手法です。RFM分析では、顧客をこれらの3つの指標に沿ってスコアリングし、スコアを基に「優良顧客」「安定顧客」「休眠顧客」「新規顧客」といったグループに分類します。グループごとに最適なアプローチ方法を実施することで、安定顧客から優良顧客へのランクアップなどが期待できます。
ROIを分析する
営業やマーケティング活動におけるROI(Return On Investment)は、投資した費用に対して、どれだけの利益を上げられたかを表す指標で、投資対効果、投資利益率などと呼ばれることもあります。顧客育成では、先述のとおりさまざまな手法が挙げられますが、それぞれ必要になるコストや労力は異なります。最終的な利益に対して、どれだけのコストがかかっているのか、ROIを分析しながら、自社にとって最適な顧客育成の手法を見極めることが大切です。
顧客育成でツールを活用するのもお勧め
顧客育成を行う際は、顧客情報の管理や、営業活動およびマーケティング活動を効率化させ、スムーズに確度の高い顧客を商談へ促すことが重要です。
このとき、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)といった顧客情報を管理し、会社全体で情報を一元管理できるツールを活用することで、顧客とのやりとりや案件の進捗を営業担当者個人で管理することがなくなり、属人化を防ぐことができます。
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また、顧客へのアプローチの自動化や顧客分析などを効率化させる際は、MA(マーケティングオートメーション)がお勧めです。顧客対応に手が回らず、最適なアプローチのタイミングを逃してしまうリスクを防ぎ、失注や顧客が他社に流れてしまう事態を避けることが期待できます。
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まとめ
この記事では、顧客育成を行うメリットや手法、効果的に行うコツなどをご紹介しました。顧客育成を効果的に行うためには、顧客分析を行い、顧客の企業それぞれの特徴や状況に合わせたアプローチが重要です。記事内でご紹介したアプローチ手法やコツを参考に、自社に合ったものをご活用ください。