大企業を中心にDXの取り組みが急速に進んでいるなか、中小企業ではIT人材不足やコストなどの理由から足踏みせざるを得ないケースも多いといわれています。そこで今回は、中小企業のDXを支援するコンサルタントである稲村 浩二氏に、中小企業のDXの現状や、これから取り組む際に気をつけるべきポイントを詳しく伺いました。
稲村ビジネスコンサルティング 代表
稲村 浩二 氏
花王株式会社、日本ヒルズ・コルゲート株式会社、大幸薬品株式会社にて、商品開発、新規事業開発、海外事業開発、マーケティングなどに携わった後、2019年に稲村ビジネスコンサルティングを開業。
勘違いされがちな
「デジタル化」と「DX」
「デジタル化」と
近年、デジタル技術の進歩もあり、DXに取り組む企業が急激に増えています。しかし、単にこれまでの業務をデジタル化しただけでは、DXを達成したとはいえません。そこで、まずはDXの本来の意味や必要なステップについて解説します。
DXに必要な3つのステップ
DXに重要なのは売り上げや付加価値の創出
DX(Digital Transformation)という言葉が広く浸透し、さまざまな業界で使われるようになりました。しかし、DXを掲げたプロジェクトの中には、本来の目的が達成できていないものも少なくありません。
そもそも、DXには3つのステップがあります。1つ目が「Digitization」で、紙媒体などで作成されたアナログデータをデジタルデータに変換することです。2つ目が「Digitalization」で、1つ目のステップでデジタル化されたデータを利用して業務プロセスなどを変えること。この2つは、日本語にすると両方「デジタル化」と呼ばれています。そして、デジタル化により新たなビジネスモデルや付加価値を生むのが「Digital Transformation(DX)」です。
DXは、単に「新しいツールを導入する」「ペーパーレス化する」ことを目的とするのではなく、自社の売り上げや優位性を高めるための施策であることが重要だといえます。
中小企業がDXで失敗しないために
事前に知っておきたいこと
事前に
前述のとおり、単にデジタル化できるツールを導入すればDXが成功するわけではありません。ここでは、私が普段コンサルティングを行う際の流れと、そこでよく見るDXの失敗パターンをご紹介します。
DXを成功に導くためのフロー
コンサルタントが勧めるDXの適切なフローとは?
DXで効果を生むためには、適切なフローに沿って進めていく必要があります。やみくもに新しいツールを導入したり、新しいシステムを立ち上げたりしても、その企業が持つ課題を解決できるとは限りません。そのため、私が普段DXを支援する際には、以下のようなフローに沿って進めるようにしています。
まず、現在の業務プロセスを詳しく調査し、フローチャートにまとめるなどして業務分析を実施。対象の企業が遠方にある場合は、現場の写真を撮って送ってもらった上で、業務状況をヒアリングしています。続いて、その企業の課題がどこにあるのかを探し出し、どうしたら解決できるか、仮説を立てて検証していきます。その後、必要なツールを検討・導入していくというのが通常の流れです。
課題を解決するためには業務分析と検証が不可欠
こうしたフローを進めていく際に大切なのは、その企業が抱える課題を明らかにした上で、業務プロセスのどこを改善すべきなのかを検討していくこと。扱う商材や体制によっても必要なツールは異なるため、業務状況の正確な分析や丁寧な検証が不可欠です。
例えば、生活用品などのBtoC(Business to Customer)商材を扱っている企業が、BtoB(Business to Business)向けの売り上げ管理ツールを導入しても、使いこなすのは難しいでしょう。ともすると「ツールを導入すること」自体が目的になりがちですが、業務プロセスに組み込むことを前提にして、自社のビジネスモデルに合ったツールを選定する必要があります。
DXの失敗パターン3選
高性能で多機能なツールでも自社に合うとは限らない
中小企業の支援をしているとよく見かけるのが、せっかくDXに取り組んでいるのに、うまく効果が出ていないというケースです。そうしたDXの“失敗”にはいくつかのパターンがあります。
1つ目は、新しいツールを導入したのに使いこなせていないパターン。例えば、経営層が「○○の見える化」という製品のキャッチコピーに惹かれて導入を決定したものの、自社の業務にはあまり合っていなかった、といった企業はよく見かけます。
2つ目は、何を導入すればいいかわからなくなっているパターンです。現状、使っているツールが自社の業務プロセスに合っていないと気づいても「では何に入れ替えればいいのか?」がわからず、現状維持になってしまうケースもあります。
そして3つ目が、メーカーやベンダーの言いなりになってしまうパターンです。中小企業はIT専門の担当者がいない場合も多く、複雑な初期設定や日々の運用管理まで手が回らないことも。マニュアルを読んでも難解でよくわからず、導入を支援してくれたメーカーやベンダーに対応をお任せしてしまったという話も聞きます。
いくらDXにお金をかけても、適切なフローに沿っていなければ、こうした失敗パターンにはまってしまうかもしれません。特に、高性能で多機能なツールは魅力的に見えやすいのですが、その中には専任の担当者がいないとうまく使いこなせないようなものも少なからず存在します。せっかくDXに取り組むなら、費用対効果を最大限に高めるためにも、自社にとって“本当に役立つ”ツールを見極めることが大切です。
中小企業こそDXは急務
プロが語る“効果を生む”取り組み方
プロが
ここまで、DXの本来の意味や適切なフロー、そしてよくある失敗パターンをご紹介してきました。 では、中小企業がDXの効果を実感するために、どんな知識や視点が必要なのでしょうか? これまで支援してきた経験や事例を基にお話しします。
なぜ、中小企業を支援する事業を始められたのでしょうか?
実家が中小メーカーだったことと、私自身の経歴が関係しています。私は国内大手企業で市場調査や商品企画を担当した後、外資系企業日本支社での営業管理や、中堅製薬会社での営業責任者・商品開発を経験。その後、起業してコンサルティングを始めましたが、所属していた企業と中小企業とでは、ノウハウの量や人材の幅に大きな差があると感じたんです。
こうした現状を少しでも解消したいという思いに加えて、自身が多様な経験を積んできた社会に何か恩返しをしたいと考えていたこともあり、中小企業に特化した支援を続けています。その一環として、2023年12月には『DXで売上拡大! 中小メーカーの変革実践ガイド』という書籍も刊行しました。
なぜ、中小企業にDXが必要なのでしょうか?
企業が売り上げアップを図るには、もはやDXに向けた取り組みが避けられない時代となっているからです。中小企業庁が公開している「倒産の状況(令和6年3月分)」によると、2023年に倒産した中小企業は8,690件。その原因のうち73%は「販売不振」です。これは最近に限った話ではなく、データが公開されている2016年以降は毎年、中小企業の倒産原因の約7割程度を「販売不振」が占めています図1。
従って、企業が生き残るには、売り上げが伸び悩む種をいち早く見つけ出し、改善していくことが非常に重要です。そのために、まずは自社の事業や業務の状況を正確に把握し、ボトルネックとなっている部分を解消するなどして、PDCAサイクルを回していく必要があります。しかし、特に中小企業においては、それができる仕組みやツールがまだあまり整備されていないのが現状です。
DXというと、技術的に高度なツールの導入や、大規模なシステムの入れ替えをしなければ成功しないと考える方も多いのですが、そうとは限りません。自社の売り上げをアップさせるために、まずは必要な対策を考えることから始めるべきだと考えています。
これからDXに取り組む場合、どんなことに気をつけたらいいのでしょうか?
「新しいツールの導入」自体を目的にしないことです。前ページで解説したとおり、高性能なツールを導入したのにうまく使いこなせなかった、という企業はよく見かけます。これでは、DXにお金や手間をかけても思ったような効果は得られません。
例えば私が担当した案件でも、「営業力を強化したい」と希望する企業の業務状況を詳しく調べたら、すでに営業効果を高めるためのツールが導入されていた、というケースがあります。しかもサブスクリプション型のサービスだったため、うまく業務に活用できていないにもかかわらず、料金は支払い続けているという状況でした。
また、最近は「MA(Marketing Automation) ツール」も人気ですが、導入には注意が必要です。Automation(自動化)=ラクになるとイメージする方が多いのですが、導入さえすれば自動でマーケティングができるというわけではありません。アプローチのタイミングや方法など、潜在顧客を顕在化させるシナリオを自分たちで作り、それを実現するための情報を集める必要があります。自社でその対応ができるかどうか、導入前に検討しておくことをお勧めします。
DXの促進において、コンサルタントと一緒に取り組むメリットを教えてください。
コンサルタントの強みは、第三者の立場からツールの比較・検討をサポートできるという点です。現在は、似た用途をうたうツールが多数のメーカーから提供されています。仮に3種類のツールが導入候補として挙がったとき、社内の情報システム担当者が「製品Aにはこの機能がない」「製品Bの最大の特色はこの機能」「製品Cだと社内で運用できない」といった要素をすべて整理し、比較するのは困難です。
また、メーカーやベンダーに相談するケースも多いのですが、彼らが提案できるのは自社が扱っている製品なので、それ以外の製品との詳細な比較まで対応するのは難しいでしょう。客観的に業務状況を分析した上で、たくさんあるツールの中から自社に合ったものを選び取るために、コンサルタントをご活用いただくのも有効な手段だと思います。
これまでご支援されてきた企業では、DXによってどのような効果がありましたか?
トイレタリーなどの生活用品を販売する会社で、売り上げ管理と営業活動管理を一元化したことが、営業活動の強化につながった事例があります。その企業では、自社のビジネスモデルに合わない管理ツールを使っていたため、効果的な営業戦略の策定ができていませんでした。そこで、ツールの入れ替えを提案し、選定から運用開始までをサポートすることに。
このときポイントになったのが、導入時の初期設定です。IT知識の豊富な人材が不足している企業では、マニュアルや仕様書を読み解くのが難しく、初期設定が不十分なまま使い始めるケースがあります。しかし、自社に合わせた設定にしておかないと従業員にとっては使い勝手が悪く、効果を発揮できないかもしれません。新しいツールを導入した後、うまく活用されていないと感じた場合には、設定を見直してみるのも効果的です。
ただし、一般的に業務プロセスの改善には時間がかかります。新しいツールを入れたらたちまち効果が出るということは少なく、「課題のうち8割は解決したが、2割は残ってしまった。次は何を変えていくべきか?」と改善を繰り返す必要があります。
これからDXに取り組む企業にお勧めの方法はありますか?
まずは、名刺管理ツールを活用した顧客リスト管理の効率化から始めてみるのはいかがでしょうか。名刺交換をした人はいわば見込み顧客ですから、名刺情報は自社と将来の顧客とをひもづける貴重な情報です。特に、BtoB事業を展開している場合は、個人対個人だけでなく企業対企業のつながりも管理していく必要があります。そうした人脈を、名刺管理ツールで全社的に可視化することが可能です。
さらに、名刺情報に「展示会で名刺交換をした人」「Web問い合わせからヒアリングを行って名刺交換をした人」などのラベリングをしておけば、営業活動を進める上でのマスターデータとして活用することができます。
「SKYPCE」などの名刺管理ツールを使って、DXを成功させるポイントをお聞かせください。
単に名刺を登録するだけでなく、データとして営業活動に活用していくことが肝要です。例えば、名刺情報にプラスして「商談結果」「顧客のステータス」「今後のアプローチ予定」などの情報を名刺管理ツールに集約しておけば、属人的な顧客管理体制が解消され、営業プロセスの標準化につながります。
また、長期間にわたって顧客との関係性を維持しなければならない耐久消費財のような商材では、購入から次のアプローチまで10年~20年ほど期間が空くことも。名刺情報だけでなく「これまでの商談履歴」「次はいつ頃フォローが必要になるか」といった情報を記録しておけば、仮に担当者が変更になってもスムーズに引き継げるはずです図2。
稲村さんがコンサルティングを通して実感した、名刺管理ツールのメリットはありますか?
ほかのツールやシステムを導入する際に、顧客データの土台として活用できる点です。
以前、担当した案件でSFA(Sales Force Automation)ツールを導入することになり、顧客データの移行をサポートした経験があります。その際、移行元のデータで「部署は違うが同じ人」「役職は違うが同じ人」などが重複していたため、それを統合する名寄せ作業に大変な手間と時間がかかってしまいました。
もし「SKYPCE」のように名寄せができる名刺管理ツールで正確に顧客情報を管理していれば、今後新しいツールやシステムを導入する際にも、元データとして活用できるでしょう。
最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いします。
DXに取り組みたいと考えてはいても、何から始めたらいいのかわからない、そもそも自社にどんなツールが必要なのか判断できない、という企業は多いと思います。
社内で担当者を決めてプロジェクト化し、展示会やWebサイトで情報収集をして、システムで一元管理する……それが理想的な方法といわれても、人材不足の今はなかなか難しいですよね。そんなときは、コンサルタントをはじめとした外部の人材を頼るのも効果的です。
ここまでお伝えしてきたとおり、DXを成功させるには、まず業務プロセスの可視化と課題の早期発見に取り組む必要があります。その上で、自社には「どこに」「どんなツールが」「どんなかたちで」必要なのかを考えていくことが重要です。
また、さまざまなツールが提供されている中でも、「SKYPCE」などの名刺管理ツールはDXの第一歩としてお勧めです。自社でどんな活用ができるか、ぜひ検討してみてください。
(「SKYPCE NEWS vol.12」 2024年6月掲載 / 2024年3月取材)
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