ノーコードツール「kintone」と名刺情報の連携で
顧客・案件管理を効率化
サイボウズ株式会社が開発を手掛ける「kintone」は、プログラミングの知識がなくても、「ノーコード」で業務のシステム化や効率化を実現するシステムが作成できるクラウドサービスです。IT人材の不足により、DXを推進したくても、思うように進められないという悩みを抱える企業の方も多いかもしれません。そこで、「kintone」を活用して、非IT部門が主導してDXを推進するためのポイントや営業活動を効率化する方法などについて、サイボウズ株式会社の筆前 直輝 氏にお話を伺いました。
サイボウズ株式会社
営業本部
アライアンスビジネス開発部 部長
筆前 直輝 氏
1997年に創業し、「チームワークあふれる社会を創る」という理念のもと、チームワークを支える「kintone」「サイボウズ Office」「Garoon」「メールワイズ」の4製品のソフトウェア事業を展開し、2011年にクラウド事業を開始。中国、ベトナム、アメリカ、オーストラリア、台湾、マレーシア、タイにも拠点を設立し、ユーザーは世界へ拡大しています。
製品開発の理念は
「あらゆるチームの生産性向上の支援」
「あらゆる
テレビCMなどで「kintone」の知名度が高まっていますが、
「kintone」はどういった経緯で開発されたのでしょうか?
「kintone」は
「kintone」の前に、サイボウズ株式会社は1997年、スケジュール管理や掲示板機能など社員の情報共有に役立つ機能を多数搭載したグループウェアプロダクトの事業からスタートしています。グループウェアをリリースした背景には、「あらゆるチームの生産性向上を支援したい」という理念があります。これを実現するには、社内のスムーズな情報共有をサポートする必要があると考えたのです。
リリースしたグループウェアの「サイボウズ Office」と「Garoon」は、多くのお客様に活用いただき、「もっと自分たちの業務に特化した機能を搭載してほしい」とご要望が寄せられるようになりました。世の中には多様な業種があり、その中には多様な業務が存在します。さらに、そこで働く人々が属するチームの形も多様です。
そのため、あらゆるお客様の業務支援をしようと追求すればするほど、グループウェアだけでは、カバーしきれない部分も出てきました。そこで、社内の情報共有に軸を置きながら、多種多様なチームや業務を支援するサービスとしてたどり着いたのが「kintone」です。
グループウェアプロダクトの機能を充実させるのではなく、
新たなサービスを立ち上げたのですね。
新たな
社内でもお客様のご要望に応えて、グループウェアの機能をもっと充実させていこうという議論もありましたが、それには限界があるという結論になりました。一つのサービスに多くの機能を搭載すると、開発やメンテナンスにかかる工数が増えるだけでなく、システム自体が重くなり、使いづらくなってしまうからです。
また、これまで現場のユーザーは、自社のIT部門や外部のITベンダーが選定したシステムを使用するのが一般的でした。そのため、システムが現場にフィットしない、修正しようとしても時間やコストがかかってしまう、という課題を抱えたお客様が多くいらっしゃいました。そこでわれわれは、一番業務のことを理解している人たち自身の手で、システムを作れるサービスを開発しようと考えたのです。図1
ノーコードツールを
現場主導のDX推進の手段に
業務に携わる方の手でシステムを作れる。
つまり、「kintone」のターゲットはIT部門ではないということでしょうか?
つまり、
おっしゃるとおりです。「kintone」の契約社数は現在、約3万7,000社で、そのうちの9割の契約窓口はIT部門ではなく、業務部門です。弊社ではリリース当初から、業務部門の方が集まるイベントなどで「kintone」のプロモーションを展開してきました。業務の効率化に向けた課題を、「自分たちの手で、自分たちに合ったシステムを作る」ことで、解決できるかもしれないと思っていただく。現場主導でITを使って業務改善を進めていくためのアプローチを続けてきました。
業務部門の中でも、ターゲットを特定の業種や業務に限定していないのでしょうか?
そうです。「kintone」には、現場主導でデジタル化を進めていくことを支援したいというねらいがあります。現在の日本は、IT人材が不足していますが、人口減少が進み、デジタル化やDXは避けて通れない道です。われわれは、サービスを販売することだけを目指しているわけではありません。業種を問わず、業務部門の方々がIT部門に頼らなくても、ITを使えるようにサポートしたいという思いを持っています。
非IT部門である業務部門をターゲットとするからこそ、
「ノーコード」であることが重要なのですね。
「ノーコード」である
リリース当時は、ノーコードという言葉はまだ存在していなかったため、「自ら作れる」ことをメッセージとして伝えていました。今後さらに、ノーコードという言葉を浸透させていきたいと思っています。
先ほど申し上げたとおり、われわれは、サービスやツールを販売することだけを目指していません。企業のDX実現に寄与したいという強い思いを持っており、プログラミングの知識が不要であるノーコードは、それを実現するための手段だと考えています。
DXの本質は、変化の激しい時代に対して迅速に、アジャイルに適応し、変革していく企業体質をつくることだと考えています。そのために大切なのは、従業員一人ひとりが自ら、まずはデジタル化を進めていこうとするマインドや企業風土をつくっていくことです。そうすれば、業務のデジタル化を進めていく企業が増え、最終的にはDXにチャレンジできる企業がもっと増えていくと思います。ノーコードはそのための入口です。図2
「kintone」を導入したら、まずは何から始めればよいでしょうか?
例えば申請業務です。申請を行うとき、メールの転送や紙への押印など、アナログな方法で部署をまたいだ複数の承認を得ているケースがあると思います。これを「kintone」でデジタル化することで、アナログなフローが一気に効率化されます。承認がどこで止まっているかを可視化できるため、申請作業をスムーズに行うことが可能です。図3
“脱Excel”に「kintone」を活用するというのもよくある例です。皆さまの職場に “Excel職人”と呼ばれる方がいらっしゃるかもしれません。複雑な関数を使いこなせる“職人”が退職するとメンテナンスができなくなってしまいます。そのほかにも、「ファイルが重くて開かない」「最新版のファイルがわからない」といったこともあるかもしれません。
「kintone」は、ノーコードでシステムが修正しやすいだけでなく、Webブラウザーアプリケーションのため、ファイルが重くて開かないといったことはありません。また、「kintone」というプラットフォームに情報を集めれば、情報共有でき、属人的な業務をなくしていけるはずです。そして、最新の情報をすぐに共有し、議論がしやすくなることで、生産性の向上にもつながると思います。
「kintone」には、集約したデータをグラフ化する機能があります。Excelで行っていたアンケートの集計作業などを効率化するだけでなく、グラフとして結果を可視化することであらゆる角度から分析することも可能です。
われわれは「kintone」を、デジタル化に向けて「自分たちでやってみよう」と一歩を踏み出せるきっかけにしていただきたいと考えています。日々の業務のなかで非効率だと感じることがあれば、まずは「『kintone』でやってみたらどうなるだろう?」と考えていただければと思います。
さまざまなことに「kintone」が使えるのですね。有効に活用するポイントを教えてください。
「kintone」の特長は柔軟性です。「できることが多すぎるくらい、たくさんのことができる」というありがたいお声をいただくほど、柔軟な開発が可能です。しかしその分、活用に迷われるお客様もいらっしゃいます。
活用のポイントは、最初から完璧なシステムを目指さないことです。まずは50点、そして使いづらさを感じる部分を修正して、60点、70点とシステムを育てていく意識で向き合っていただきたいと思います。
一方で、売上情報、取引情報などを蓄積する基幹システムのような堅牢性が求められるシステムには向いていません。膨大なデータが蓄積されるため、データ保存やトラフィック量を考えても、専用のものを活用するほうがよいと考えています。
営業活動に「kintone」を活用される企業も多いのでしょうか?
そうですね。「kintone」の利用用途として一番多いのが、CRM(顧客管理システム)、SFA(営業支援システム)の領域です。
専門のツールを導入していない企業では、顧客管理、案件管理、お客様との商談履歴の管理などをExcelで行っている場合があります。例えば、営業担当者が週に一度、営業マネージャーに各自の営業活動についてメールなどで報告。マネージャーが営業担当者全員分の情報をExcelに集約し、社長に報告するといったことが行われています。
営業の方にとって大切なのは、顧客と接点を持つ時間をいかに長く確保できるかということです。会社に帰って、報告を上げたり、集計したりする業務に時間を使うよりも、少しでも多くお客様と接点を持つ時間を増やせるように働き方を変えていかなければなりません。
「kintone」であれば、商談が終わった後、出先からスマートフォンに情報を登録すれば、リアルタイムにマネージャーに通知が届き、すぐに情報が共有されます。さらに、日々の営業担当者の報告は蓄積されるため、マネージャーはExcelへの転記作業に対応する必要はありません。
報告や集約が効率化でき、本当に時間をかけるべき業務に集中して取り組むことが可能です。そして、全員で情報を共有し、コミュニケーションを取りながら営業活動を進めることもできます。図4
SFAなどの専門的なツールは大企業向けで、
中小企業のお客様は使いづらいこともありますよね。
中
確かに、専門的なツールを導入しても使いこなせないかもしれないという不安感をお持ちのお客様もいらっしゃいます。それでも、どうにかアナログな業務を改善していきたいと考えている企業には、「kintone」が有効だと思います。
ぜひまずは一度、管理したい顧客情報、案件情報などを登録できるようなシステムを作り、運用しながら修正していただきたいと思います。「kintone」はアジャイル型で、スピーディーな開発が実現できるツールです。ITの専門的な知識は必要ないので、中小企業の皆さまにとっても技術的なハードルを感じることなくスタートしていただけるのではないでしょうか。
また、活用していくうちに企業が成長し、KPI(重要業績評価指標)を管理しながら営業活動を行いたいと感じれば、専門的なツールにアップデートして「kintone」を卒業すればいいくらいの気持ちでトライしていただきたいと思います。われわれは、ノーコードの業務アプリケーション開発サービスを提供することで、デジタル化の入口を支援できればと考えています。
「kintone」は営業支援 名刺管理サービス「SKYPCE」と連携しています。
「SKYPCE」と連携するメリットはどういったことでしょうか?
「SKYPCE」と
「SKYPCE」に登録した名刺情報が自動で「kintone」に反映されるため、手入力で顧客情報を登録する手間を削減できます。名刺情報が更新されれば、「kintone」に反映することもでき、最新かつ正確な情報を営業活動に活用できるところがメリットです。
先ほど申し上げたとおり、中小企業のお客様は「kintone」をCRM、SFAの用途で利用されるケースが多いため、「SKYPCE」との連携により、顧客・案件管理をさらに効率化できる場面も多いと思っています。
また、われわれは、提案・販売、導入支援をするパートナー企業を介して、サービスを届けています。それはSky株式会社も同様で、弊社と共通するパートナー企業も多い認識です。共通するパートナーが多いからこそ、広く全国のお客様に「SKYPCE」と「kintone」を併せたソリューション価値を広げていける点もメリットだと考えています。図5
「SKYPCE」のほかにも、さまざまな他社製品と連携されています。
連携を強化するねらいはどういったところにあるのでしょうか?
連携を
先ほど、柔軟性が「kintone」の特長だとお伝えしましたが、もう一つ、拡張性も「kintone」の強みです。近年、クラウドサービスの業務利用が当たり前になってきました。お客様が使用するさまざまなクラウドサービスを連携することで、より幅広い業務の効率化をサポートできると考えています。
繰り返しになりますが、われわれは、多様なチームの生産性向上に寄与したいという思いを持っています。しかし、それを弊社だけで実現しようとは考えていません。提案・販売、導入支援、製品連携などを行うパートナーの皆さんとともに実現していきたいと思っています。
最後に読者の皆さまへメッセージをお願いします。
弊社はお客様にクラウドサービスを提供することだけでなく、DX時代に適応する企業体質づくりのお手伝いをしたいと考えています。
人口が減少していくなかで、DXは多くの企業が抱えている課題です。IT人材が不足しているという理由から、DXに踏み出せていないのなら、非IT人材の皆さんのリスキリングに取り組んでみてください。ノーコードの「kintone」はリスキリングにもご活用いただけると思います。こうした取り組みが、「この会社は変わりながら成長していけるんだ」という従業員のマインドにつながり、変化の激しい時代にも迅速に適応できる企業風土を醸成するのではないでしょうか。ぜひわれわれに、ご支援させていただきたいと思っています。
(「SKYPCE NEWS vol.15」 2024年12月掲載 / 2024年10月取材)