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Sky株式会社

公開日2023.06.14更新日2024.09.27

マーケティングで成果を上げる鍵は営業以外が直接お客様と話すこと

著者:Sky株式会社

営業以外が直接お客様と話すこと

BtoC(Business to Consumer)企業では、古くからマーケティングの手法が取り入れられてきましたが、近年BtoB(Business to Business)企業でも、環境の変化に柔軟に適応する手段としてマーケティングへの注力が始まっています。そこで、日本のBtoBマーケティングの第一人者であるソフトバンク株式会社の山田 泰志 氏に、BtoBマーケティングに取り組むポイントについてお話を伺いました。

ソフトバンク株式会社
法人マーケティング本部 兼 法人プロダクト&事業戦略本部 兼 カスタマーサクセス本部 兼 プロセスマネジメント本部 担当部長

山田 泰志

専門はBtoBマーケティング。大手グローバル企業複数社、スタートアップ企業など、事業会社のマーケターとして活動。2019年10月ソフトバンク株式会社に入社。BtoBマーケティングの機能設計、メンバーへのコーチング、マーケティングテクノロジー全般を担う。世界で最も利用されるマーケティングオートメーションプラットフォーム「Adobe Marketo Engage」のエキスパートとして、2021年、グローバルで日本人初の「Adobe Marketo Engage Champion」に選ばれるなど国内外で高い評価を受けている。

日本ではまだ少ないBtoBマーケティングの道に進まれたのはなぜですか?

BtoBのマーケティングが好きだからです。マーケティングでもBtoCとBtoBでは大きく異なります。例えば陸上競技でも、やり投げと走り幅跳びには距離を競うという共通点はありますが、やりを投げて遠くに飛ばすのと自分で走って遠くに跳ぶのでは、目標を達成するためのアプローチがまったく違います。やり投げをしたい人もいれば、走り幅跳びをしたい人もいる。それと同じように、私が好んでいるのがBtoBマーケティングですね。BtoBならではの面白さに深い興味を持っています。

マーケティングにおけるBtoCとBtoBの違いについてお聞かせください。

最も異なるのは、製品やサービスの購入プロセスです。BtoCは一般消費者が自分の意思で購入するのに対し、BtoBでは多くの場合で個別商談を経なければ契約が成立しません。担当者が気に入っても、上司、さらに上層部、各関係者を説得して同意を得られなければ決まりません。担当者のノリや感情に訴えるのではなく、直接・間接なのかは別として顧客の事業にプラスになる、利益につながることを説明して納得してもらう必要があります図1。そのためには、ご契約いただきたい製品やサービスが、お客様のビジネスに対してどのような価値をもたらすのかを論理的・客観的に説明しなければなりません。複数の相手、集団を納得させる工程は非常に複雑ですが、その複雑さがBtoBマーケティングの面白さだと感じています。

各自がそれぞれの立場で
お客様と向き合い情報を集める

一般的に営業の皆さんにとって、企業名が知られている方がお客様との最初のコミュニケーションが取りやすいと思いますが、BtoB企業が知名度を上げることはBtoC企業に比べて難しいのではないでしょうか。

商談開始時のお客様とのコミュニケーションは、企業名が知られている方が確実に有利です。BtoBマーケティングが進んでいる欧米では、ターゲットが法人であっても自社の存在が広く知られるよう、各種広告や大型展示会への出展を積極的に行っています。最近ではSkyさんをはじめ、日本のBtoB企業も、テレビCMを利用されるようになってきました。このように多くの人に広く知ってもらうには、BtoCと同じマーケティング手法が有効な場合もあります。

一方、このところBtoB企業でも活用されるようになってきたSNSの使い方には違いがあり、BtoC企業のように「中の人」で成果を出すのは商材の適正もあり必ず適用できるとも限りません。他方でSNS広告の利用が拡大していますね。

日本でもBtoBマーケティングに取り組む企業が増えてきたのは、コロナ禍の影響でしょうか。

コロナ禍以前から、古くからの勘と経験、根性による営業スタイルでは、組織で求められるビジネス拡大に不足してしまう危機感を持たれる企業が増加傾向にありました。それをコロナ禍がさらに後押ししたという感じでしょうか。もともと、客先に足しげく通ってお客様とお話しすることを得意とされてきた営業の皆さんにとって、突然のコロナ禍で訪問という行為を奪われた痛手は大きかったはずです。実は、一見非効率で原始的に思える何度も客先に足を運ぶ行為には、お客様に本音をしゃべりやすくさせる効果があり、企業にとっては有用な情報が得られる相互作用が働きます。しかし、それが封印されてしまった以上、企業は利益を生み出す新たな手段を見つけるしかありません。そこで多くの企業が取り入れたのがBtoBマーケティングでした。

また、コロナ禍は世界的にも投資家の皆さんによるハイテク銘柄への投資を加速させ、その結果、開発資金を得たIT企業によりツールやプラットフォームの機能や種類の充実も大きく前進させました。もちろん、BtoBマーケティングツールも同様です。この流れがBtoBマーケティングの追い風になったことは間違いありませんので、そういう意味ではコロナ禍は大きな転換期でした。

海外と日本では、マーケティングに違いがありますか?

日本企業の多くが、マーケティング部隊を営業部門の一組織として機能させていますが、この場合、どうしても営業に比べてマーケティング担当者(以下、マーケター)が極端に少なくなる傾向があります。海外では営業とは別の独立した組織として機能しているため、業種による違いはあれ営業500人に対してマーケターが300~500人。営業の体制が30人の企業であれば、マーケターは20人くらいの体制も珍しくありません。

マーケターには、自社のサービスや商品がお客様にとってどのような価値があるのかを描き出す役割があります。そのため、常にお客様を見て仕事をします。しかし、日本では営業を見て仕事をするマーケターが多く、営業のお手伝い係や補佐役にとどまってしまっている感があります。商品やサービスが売れる仕組みを作るマーケティングの仕事では、お客様から有益な情報を引き出すことに価値があり、営業しか見ていなければ役目を果たせません。また、営業には話しにくいことも、マーケターには話せるお客様もいらっしゃいます。さらに、マーケターだから引き出せる話も多分にあります。営業とマーケターがそれぞれにお客様と向き合えば、テーマが同じであっても角度の違う情報が集まりますから、その情報を基に話し合えば、営業の意見だけを反映するよりもお客様に刺さる提案書が作れるのではないでしょうか。

ちょうど先日、弊社でも営業以外の社員がお客様と直接話をしたり、もっとお客様を見る必要があると話をしていたところです。

私が今のような話をすると、大抵の方が「自分たちのことを言われていると思った」とおっしゃいます。マーケターだけでなくマーケティングに関わっている方々に、この1か月でどれくらいお客様と会話したのかを聞くと、なかには1か月どころか半年以上前だとお答えになる方も。実は当社でも、以前はマーケターの多くが営業や上層部しか見ていませんでした。そこで「上層部や営業の意見を聞くのはもちろん大事だけど、直接お客様を見て仕事をしなければ、本来のマーケターの役割が果たせなくなってしまう」と伝えたところ、今では各自がお客様と直接会話することを意識して実際に行動をしています。

よく営業とマーケターは話がかみ合わないといわれますが、それはマーケターがお客様を意識できていないからです。私はお客様から直接話を聞いていないマーケターの提案を、妄想だと思っています。提案や立案をしているといえばかっこよく聞こえますが、それを妄想と言われたらショックですよね。そう思われないためにも、マーケティングにはお客様との会話が大事です。

貴社のマーケターの方々は、どのようにお客様と会話されているのでしょうか。

当社でもマーケターが商談に同席することはあります。しかし、お客様が商談で会話する相手は営業で、営業が引き出す以上の話を聞けることは限られます。そのため、お客様に直接ご連絡して、自分が作成した資料の感想を伺うなど、商談とは別の機会で話すことを意識しています。ご連絡するお客様を見つける方法はいくつかあります。例えば自分が作成した資料をダウンロードされたお客様にご連絡をし、冒頭でその資料を作成したのが自分であることと、もっとお客様のお役に立てるコンテンツを作っていきたいのでお話を聞かせてほしい。と率直にお願いする。この手段は当社でもよく行っています。そのまま会話が弾み、いろいろとご意見をいただけるお客様は大勢いらっしゃいますね。

もちろん、お忙しいタイミングにご連絡すれば断られることもありますが、30分~1時間ほどお時間をくださるお客様もいらっしゃいます。また、展示会などのイベントへの出展も、お客様と直接お話しできるチャンスです。「私はこう思います」ではなく「お客様がおっしゃっていました」と伝えられるようになれば、それはもう妄想ではありません。営業や上層部も「お客様のことをわかっている人」として接してくれると思います。

近年、顧客の成功によって利益を得る「カスタマーサクセス」を重視している企業が多いのは、どのような背景からでしょうか。

カスタマーサクセスが重視されるようになったのは、サブスクリプション型のサービスが関係しているといわれています。海外で2012~2013年に公表された論文に、サブスクリプション型のサービスがもうかると書かれた影響で、一気に普及しました。しかし、売り切りモデルと違いサブスクリプションで高い収益を上げるためには、新規顧客の獲得だけでなく既存顧客との契約継続が重要です。そこで、2015年ごろから海外では主に既存顧客をつなぎ止める目的でカスタマーサクセスが利用されるようになっていきました。現在では、主に顧客との関係性を強くしてさらに良好にしていくための手法として活用されています。

BtoBで重要なのは、お客様から売り手の顔が見えることです。当社でもお客様との関係を強化していくため、2022年4月にカスタマーサクセス本部を立ち上げています。

弊社では、カタログやチラシ、Webサイトはもちろん、YouTube動画など、テレビCM以外のツールをほぼ内製しています。しかし、制作担当者がお客様から直接お話を伺う機会はほとんどありません。ここが改善ポイントのような気がします。

もちろん営業ほどの回数は必要ありませんが、お客様と一定の頻度で会話ができれば、もっとお客様に響く資料やWebサイトが作れるはずです。弊社でもお客様と接点を持つようになった社員が語る内容は、妄想の域であった以前とはすっかり変わりました。

BtoBの場合、お客様が商品やサービスを気に入られたとしても、すぐには契約に至りません。大きな取引になると、契約成立までのやりとりは平均で30回近くも発生するといわれています図2。すでに購入までのプロセスで発生するフェーズは研究によって確立されていますが、お客様が求める情報はフェーズごとに変化しますから、そのたびに適切な情報を提供しなければなりません。そこで必要なのは、フェーズごとに求められる情報への洞察力です。その感覚を高度に養うには、お客様と直接向き合うことが欠かせません。制作物のクオリティを上げるだけでなく、マーケターの役割で利益に貢献するためにも、ぜひお客様と直接つながってください。

資料やWebサイトなど、自分が作り出すものがお客様に響いているのか、確認することが大事ですね。

そのためのフィードバックは、お客様から直接もらう必要があります。自分で作ったカタログや資料には、多かれ少なかれ愛着やこだわりがありますよね。自分なりに一生懸命考えた結果が正しかったのか、答え合わせができるのはお客様だけです。制作を依頼してきた営業に聞いてもそこに答えはありません。

アンケートで注力するのは、
「悪かった」意見を集めること

お客様の声をアンケートで聞こうとする企業は多いと思いますが、貴社ではアンケートをどのように活用されていますか?

もちろん、アンケートでもある程度のヒアリングは可能です。私どもでも実施していますが、そこから答えを得るというよりは、直接ご連絡するお客様を見つける目的で活用しています。例えば、ウェビナーの開催が決まれば、マーケターなど担当者が内容を検討し提示用の資料を作りますよね。そして、ウェビナーの最後には主催企業のほぼすべてが、内容の満足度を確認するためのアンケートを実施するはずです。私どものチームでは、満足度を確認する回答は「期待したテーマで、内容も良かった」「期待したテーマではなかったが、内容は良かった」「期待したテーマだったが、内容が良くなかった」「期待したテーマではなかったし、内容も良くなかった」のような4択と決めています。「良かった」回答は、こちらの狙い通りうまく話が響いたことを確認するためのもので、そこからさらによくしていくヒントは得られません。アンケートの設計時には、「悪かった」点をどう拾い集めるかに気を配ります。重要なのは、何が悪かったのか回答しやすくなっているかです。「悪かった」を選びやすくすれば、そこから連絡できるお客様が見つかります。

私もウェビナー受講時のアンケートが5択の場合、無難に「普通」を選びがちです。

日本人は「悪かった」を選びづらいと感じる傾向が強く、無難に真ん中を選ぶ方が多いのですが、企業がさらに上を目指すためには「悪かった」を集めなければなりません。そこで、「悪かった」を選びやすくするために真ん中を選べない4択にして、かっこをつけた“(ほぼ)”を追加します。すると、「悪かった」を選びづらい方も「(ほぼ)悪かった」は選びやすいと感じるようです。そこで、「(ほぼ)悪かった」と回答してくださったお客様にご連絡してみると、「大半は良かったが、後半のこの部分の話がわからなかった」とか「2つ目の話はすでに知っているありきたりな話だった」など、具体的な話を伺うことができます。マーケティングにとって、ただアンケートを実施するだけでは意味がなく、回答してくださったお客様としっかり向き合っているかがとても大事なポイントです。

以前、昨年から話題のリスキリングについて取材した際、営業の方にとってのリスキリングはデジタルマーケティングの知識を身につけることだと伺いました。実際に学び始めるには、何から取り組んだらいいでしょうか。

BtoBの場合、マーケティングそのものを学ぼうとしても、残念ながら国内にはまだ良質なコンテンツがそろっていません。例えば、マーケティングで使う仮想の人物像「ペルソナ」について調べようとしても、書店に並んでいる本には「20代」「女性」「独身」のように、1人の人物の思考傾向や行動を分析するBtoCのペルソナについての説明がほとんどです。BtoBではその点で大きくBtoCと異なり、購買にいたるまでに複数のキーパーソンが存在します。そして、商談に各ご担当者がどのような役割で関わるのか。その役割の方が気にされる点は何か。主にどのような手段で情報を得ているかなどに注目するのがBtoBのペルソナです。

先ほど購買フェーズについてお話ししましたが、BtoBマーケティングでは購買を前進させるため、その時にお客様に価値あることをご提供できるかが重要です。お客様と接してきた営業の方であれば、購入のきっかけや検討を始めるタイミングをつかみ、どのような話をすればお客様の購買行動が前進するのか、すでにある程度の感覚をお持ちだと思いますが、マーケティングでは、さらに仕組み立てた分析が求められます。

営業職もそうですが、マーケティング業務ではメールを送ったり、資料を作成する頻度が高いため、ある程度の文章力を持っていた方がお客様に伝わるのではないでしょうか。

そうですね。文章の書き方について学んだのは、中学校の国語の時間が最後という方も多いと思います。生徒は400字詰め原稿用紙が埋まるくらいの長い文章が書ければ褒められました。しかし、マーケティングでは、少ない文字数でしっかりとお客様に伝わる必要がありますから、中学校までに習った文章力では歯が立ちません。伝わる文章を作るためには、試行錯誤するよりも勉強した方が確実で早いです。

マーケティングに欠かせない、マーケティングツールを選ぶポイントについてお聞かせください。

特にBtoBマーケティングでは、ツール選びを失敗される企業が多いと感じています。主な要因の1つは、企業が目指しているゴールと選んだツールで適応できる成功の規模感が釣り合っていないことです。将来的には上場や世界への進出を目指している企業が、現在の規模に合わせて中小企業向けのマーケティングツールを導入しても、ツールはその規模感の役割しか果たせません。最初から目指しているゴールにふさわしいマーケティングツールを選ぶことをお勧めします。

もう1つは、経営層と現場の認識合わせをしないまま、ツールを使わない人が選んでいることです。マーケティングツールは利益を上げる目的に直結しているため、ほかのツールとは異なり社長が自ら選定されるケースがあります。「せっかくマーケティングツールを導入したのに結局生産性が上がらず、期待した効果が得られなかった」といわれるのは、現場の社員が選定に関わっていないためです。しかし、実際に社員だけで選べば、今の自分たちに使いこなせるかどうかが基準になってしまい視線が下がることもあります。企業が目指すレベルに合わせるには、何を目指してどう取り組んでいくのか経営層と現場の認識合わせが重要です。

現在の事業規模に合わせるのではなく、多少背伸びをするくらいのマーケティングツールを選ぶべきということですね。

ちょっと背伸びして、次のレベルを目指すくらいがちょうどいいと思います。背伸びしないマーケティングツールを入れるくらいなら、表計算ソフトウェアでも十分ではないでしょうか。しかし、それでは事業が伸びません。マーケティングツールを高い生産性に生かしている企業は、ツール選びのポイントを押さえて導入していることはもちろん、メンテナンスも欠かさず対応されています。SaaS(Software as a Service)は、改良や新機能のリリースをほぼ四半期に一度のペースで実施していますから、ユーザー側もそれに追随してレベルアップしていくことが必要です。

属人化させないために必要なのは
活動の記録が残る仕組み

営業数字を上げていたエースが辞めてしまうと、数字の回復が大変だと伺うことがありますが、お客様の情報が社内で共有される仕組みがあれば、ダメージは少ないのではないでしょうか。

確かに、どの職種でもその人がいるから高いパフォーマンスが上げられるという場合もあります。ただ、利益が下がった理由が売り上げナンバーワンの営業が辞めたことなのであれば、それは営業スキルの問題ではなく、その企業とお客様の関係性が希薄だからではないでしょうか。一定の仕組みの中に、お客様とのこれまでのやりとりや関係性の記録が残っていれば、その情報をほかの営業が引き継ぐことで、これまでと同様の関係を継続していけるはずです。しかし、記録が何も残っていなければ関係性はゼロに戻ってしまいます。多くの企業で問題になっているのは、その点ですね。

やはり、お客様との日ごろのやりとりの記録が残り、社員がその情報にアクセスできるようになっていれば、一人の優秀な社員に依存する体制から脱却できそうですね。

そもそも海外では雇用の流動性が高く、人の入れ替わりが激しいため、一人の営業がいなくなったからといって企業の存続が危ぶまれるほどのスーパー営業依存体制は起こりにくいです。2~3年で優秀な営業がいなくなるようなことが繰り返されても、お客様との関係性が変わらず継続していけるのは、社内に情報を残す仕組みが確立しているからです。

もちろん、スーパー営業やスーパーマーケターがいれば、爆発的に売り上げが伸びるかもしれませんが、情報さえあればほかの人でも一定レベルの結果を残せます。少なくとも名刺情報が組織で管理されていれば、最低限そのお客様との関わりがわかりますから、まったく情報が残っていない場合とはスタート地点が違います。

組織の一員として獲得した情報は、
個人ではなく組織のもの

交換した名刺を引き出しの中に入れっぱなしにしたり、個人で管理しているだけではダメだということですね。

お客様とやりとりした情報・名刺は、個人のものではありません。企業・組織の資産です。たとえ自ら頑張って獲得した情報であっても、会社組織の一員として知り得た情報ですから、所有権を持っているのは企業・組織です。もちろん当社でも名刺をはじめ、お客様の情報は企業の資産として管理しています。そして、企業の資産ということは、管理を個人に任せるわけにはいきません。企業が管理している状態をはっきりと示すことができなければ、責任を問われる事態にもなりかねないということを経営や組織運営においても意識してみるとよいと思います。

ところで、山田様は年間に本を数百冊も読んでいらっしゃるそうですが、どのように時間を作られていますか?

まとまった時間を確保することは難しいので、隙間時間を利用しています。これを私は「ちょこちょこ読み」と言っているのですが、実はオフィスから駅まで歩く間にもいくつものチャンスがあります。例えば、エレベーターを待っている時間や乗っている時間、横断歩道の信号待ち、駅のエスカレーターに乗っている間など、全部合わせたらちょこちょこ読みに使える時間は意外とあるんです。ただ立っているだけの時間を有効活用すれば、毎日何ページかは確実に読めます。

また、自然と内容が頭に入ってくるような気がして、読書は紙の書籍と決めています。後から知ったのですが、紙の方が脳の活性化につながるという研究結果もあるようです。そのようなことから、私のバッグには常に2冊の本が入っています。ジャンルや内容の難易度の違いなど、組み合わせはいろいろです。「今、その本を読みたい気分じゃない」「今、難しい本を読むのはしんどい」ときに、1冊しか入っていなければ読書を諦めるしかありません。でも、別のジャンルや内容が簡単なもう1冊があれば、読む気になるかもしれませんよね。私が読書で心掛けているのは、自分に無理をさせすぎないことですね。自分なりで長く続けることが大切です。

読書の時間が作れない方へのアドバイスをお願いします。

以前、私のチームのメンバーに「せっかくマーケティングに関わっているんだから、もっと勉強しよう」と話したことがあります。すると、幼少期のお子さんを持つ女性社員から「山田さん、育児の大変さをわかっていませんね」という言葉が返ってきました。大変なのは事実だと思います。そこで「1時間や2時間も確保するのは無理だから、隙間時間を使ってちょこちょこ読みをしてみたら。だまされたと思ってやってみて」と伝えたところ、後日、実際に試した社員から返ってきた言葉は「確かに意外と読めますね」でした。

今、私がとても心強いと感じているのは、チームメンバーにとって勉強が当たり前になっていることです。「本を読んで勉強し始めると、自分にはこんなにも知らないことがあると知って恐ろしくなりました。でも、今は知識を得るのが楽しくなっています」「知識が増えると仕事が楽しくなりますね」など、仕事への取り組みが非常に前向きになっています。子どもに「勉強しなさい」というと「自分は勉強していないくせに」と返され悩んでいる方も多いと思いますが、自分が勉強している姿を見せると子どもの態度がガラッと変わるという話もありました。そして「自分も勉強している」といえることがかっこよく感じられると教えてくれるメンバーも。皆さまも、まずは「ちょこちょこ読み」からチャレンジしてみてください。

最後に読者にメッセージをお願いします。

私にとってBtoBマーケティングは非常に興味深くやりがいのある仕事です。そして、誤解を恐れずにいうと、とても楽しい世界でもありますから、ぜひ、多くの皆さんに興味を持っていただけたらと思っています。

せっかく仕事をするなら、できればかっこよくやりたい、かっこいいと思われたいと考えませんか?獲得した情報を利益につなげて事業をプラスにするBtoBマーケティングは、かっこよく仕事ができる役割の1つではないかと考えます。まだ日本には、BtoBマーケティングを、今から始める方も大勢いらっしゃいます。ぜひ、今のうちにマーケターとしてのキャリアをスタートさせてみてはいかがでしょうか。今後、BtoBマーケティングの世界で活躍する仲間が増えることを楽しみにしています。

(「SKYPCE NEWS vol.6」 2023年5月掲載 / 2023年3月取材)