コミュニケーション力の重要性が高まり、今や雑談をしない管理職は職務怠慢と言われる時代になりました。そして、雑談はお客様との距離を縮めて売上をアップさせるためにも欠かせない行動です。利益を追求する上でも重要な雑談力をどのように鍛えるといいのか、『世界最高の雑談力』の著者である岡本 純子 氏にお話を伺いました。
株式会社グローコム
代表取締役社長
岡本 純子 氏
「世界最高の話し方」を教える「伝説の家庭教師」。新聞記者として鍛えた「言語化力」「表現力」、PRコンサルタントとして蓄積した「ブランディング」ノウハウ、ニューヨークで学んだ「パフォーマンス力」「科学的知見」を融合し、独自のコミュ力メソッドを確立。近著『世界最高の話し方』は15万部を超えるベストセラーに。2022年『世界最高の雑談力』、2023年『世界最高の伝え方』を出版。2022年5月に、次世代リーダー向けの「世界最高の話し方の学校」を設立。
新聞記者はご自身にとって天職だと思われていたそうですが、
そこまでの仕事を辞められたのはなぜですか?
そこまでの
新聞記者を辞めたのは、家庭の事情でアメリカでの生活をスタートすることになったからです。当時は、今のように休職・復職制度が整備されていない時代でしたから、一度辞めれば再び戻ることはできません。それでも後は何とかなると思って辞めました。という話をすると、皆さん私のことを前向きな思考で自ら道を選んできた人だと言ってくださいます。しかし、実際には“取りあえず辞めた”ことがライフシフトにつながり、振り返ってみると結果的にうまくいったという感じです。
アメリカでコミュニケーションを学ばれたのはなぜですか?
新聞記者の経験を生かし、将来はメディア業界で働くことを視野に入れていましたので、最初にアメリカでの生活を始めた際に通った大学で研究したのは、メディア学です。その後、日本に戻って就職したPR会社で9年間、多くの企業トップの方々に記者会見での受け答えなどメディアへの応対の仕方や、プレゼンテーションのトレーニングを提供していました。その当時、すでにアメリカではスティーブ・ジョブズのように歩きながらスピーチをするスタイルがプレゼンテーションの主流になっていましたが、日本では演台にしがみつき、スクリプトを読みながらスピーチするのが当たり前。もちろん、聞いている人の心に届けるためには、ジョブズのようなスタイルが有効です。しかし、そのころの私のプレゼンテーションやスピーチ力では、残念ながら日本の企業トップの方々をジョブズにすることはできませんでした。そこで、まずは自分自身がもっとうまくなりたい、そのためには人見知りと恥ずかしがり屋を克服する必要があると考えるようになりました。しかし、残念ながら、当時の日本にはプレゼンテーションやスピーチについての優れたノウハウがありません。そこで、再び仕事を辞めてコミュニケーションの武者修行のためにアメリカへ渡ることにしました。
具体的にはどんな修行をされたのでしょうか。
毎日いくつもの学校に通ってひたすらコミュニケーションについて学び、実践することです。ニューヨークには、コミュニケーション力を鍛える学校が山のようにあり、スピーチやプレゼンテーション、ボディーランゲージ、演技・所作から声の出し方等々、コミュニケーションに関するありとあらゆる学校がそろっています。多くの人が会社や大学帰りにコミュニケーションを鍛えている様子は、スポーツジムで身体を鍛えるのと同じ感覚です。科学的に正しいやり方がある筋トレ同様、コミュニケーション力の鍛え方にも科学的な根拠があります。相手に好意を持ってもらうために働く脳内ホルモンは、どのような言動で分泌させられるかなどのノウハウが山のようにあり、それらを日々吸収していきました。また、コミュニケーション力は筋肉と同じで、鍛えれば鍛えるほど強くなります。最初は恥ずかしかった実践も、やっているうちにどんどん楽しめるようになっていきました。
コミュニケーションを学ぶ環境が、日本とは随分違いますね。
アメリカやインドでは、学校教育の中でコミュニケーションを学んでいますので、すでに義務教育の段階から日本とは大きく違います。また、学校以外にもコミュニケーション力を鍛える機会に恵まれているため、コミュニケーションで恥をかくことは子どものうちに経験済みです。一方、人前で恥をかく回数が圧倒的に足りていない日本人は、自分から積極的にコミュニケーションを取ることを恥ずかしいと感じます。しかし、恥ずかしい経験を10回、100回と繰り返せば、恥ずかしいと思う感情はまひして感じなくなっていくものです。私も実際に、人前で話したり演技するという恥ずかしい経験を毎日繰り返した結果、次第に恥ずかしいと感じる気持ちは薄れていきました。
その後、日本の皆さんがコミュニケーション力を鍛えるためには、この経験が生かせるはずだと考えるようになります。帰国後は自らの経験を基に「恥をかくことは怖くない」「コミュニケーションはうまくなるし、自信を持てる」ことを発信し続けています。
帰国後は、経営層の方への話し方の指導のほか、
昨年(2022年)には「世界最高の話し方の学校」も立ち上げられていますね。
昨年
学校では、自分を変えたい、日本を変えていきたい意欲を持っている方に向けて、科学的研究に基づいたコミュニケーション術を提供しています。3か月みっちり学んでいただいた受講生の皆さんは、演習を通じて絆を深められ、毎回最後には一つのコミュニティーができ上がります。コミュニケーションを学ぶだけでなく、小学校からの友達みたいな感覚の仲間を得ることができる場です。コミュニケーション力の向上や、コミュニケーションに悩んでいる方は、ぜひ一度Webサイトをご覧ください。
まず取り組むのは、
話すのをやめて質問すること
話すのを
営業職に欠かせない雑談力ですが、
弊社の営業職数人に雑談が得意か聞いてみたところ、ほぼ全員が苦手と答えました。
雑談力を鍛えるためには、まずは何から始めたらいいでしょうか。
弊社の
雑談力を
皆さんは、何を話せば相手が興味を持ってくれるかに意識が向きがちですが、雑談が得意になるために意識するのは、“話すのをやめて質問する”ことです。人間は話を聞くよりも自分の話を聞いてほしい生き物ですから、そもそもつまらない話は聞きたくありません。「天気がどうだ」「私、最近~」と話されても「それで?」と思っている人がほとんどです。しかし、自分の話を誰かが一生懸命聞いてくれる、この状況を嫌がる人はいません。
雑談の基本が質問なのは、アメリカでも同じです。最初のひと言としてよく使う「How are you?(元気ですか?)」「 How are things?(調子はどう?)」「How's your weekend?(週末は何をした?)」は、どれも「私~」で始まらない質問ですよね。日本では、何を話すのか、どういう話題がいいのか、そればかり考える人が多いのですが、自ら話そうとする必要はありません。まずは、質問して話を聞くことから始めましょう。
本誌前号の取材でも、営業成績上位5%のセールスは
人の話を聞くことが共通点だというお話を伺いました。
人の
営業成績に関するさまざまな調査結果を見ても、積極的に話す人よりも話を聞く人の成績が良いことがわかっています。よくできる人は「43:57の法則」で会話をするといわれますが、これは全体の43%だけ自分が話して、残りの57%は話を聞くという意味です。ところが実際に皆さんがやっているのは、6~7割を自分が話して、聞いているのは3~4割だけ。これが売れないと悩んでいる営業職の方の失敗パターンです。営業の基本の基は「話をすることではなく、話を聞く」。案外これを知らない人が多いように思います。
話をしたい、聞いてほしいと思っている人にとって、
「聞く」ことは意外と難しいのではないかと思います。
「聞く」ことは
「聞く」を極めるには、3つの段階があります。
❶ただ話を“聞く”
❷うなずいたり相づちを打ったりして、一生懸命に話を“聴く”
❸質問をする“訊く”
聞くのが得意だとおっしゃる方も、多くは❶しかやっていません。耳で音を感じているだけで、うなずきもなければ、質問もしない。それはただ聞いているだけで、内容を理解しようとはしていません。質問さえすれば雑談のネタ探しには苦労しないので、質問しないのはもったいないと思います。また、雑談の理想は「〇〇がお好きなんですね。〇〇といえば~」のように会話のラリーが続くことです。しかし、多くの人は一方通行の質問を繰り返してしまっています。人の話を聞く際は、❷❸の姿勢で臨めば話がどんどん弾んでいきますから、雑談力を強化するために、まず「聴く」を極めましょう。
休憩中、周りの社員の雑談を聞いてみたのですが、
確かに一方通行の繰り返しのパターンが多いと感じました。
確かに
やはり、皆さん聞くよりもしゃべりたいんです。その欲求に負けてついつい自分の話をしてしまいます。営業成績が良い人は、皆さん本当に聞き上手です。しゃべりたいということは、聞いてほしいと思っている。つまり、聞いてあげれば相手は気分が良くなってくれるわけですから、営業職の方が成績を上げるための近道は、聞き上手になることだと思います。
岡本様の著書『世界最高の雑談力』の中で紹介されている
“ど”をつけた質問を活用して雑談してみたところ、確かに会話に困りませんでした。
しかし、共通の話題が見つかるとついつい自分からしゃべり過ぎてしまいます。
“ど”を
しかし、
たまに自分の話をするのはまったく問題ありません。ただし、延々と自分の話をするのはNGです。相手がお客様であっても、延々と話を聞くのは苦痛ですよね。一番楽なのは、共通の話題を見つけてラリーを繰り返すことです。共通の話題を見つける手段としても、“ど”をつけた質問を意識してみてください。私がお勧めしているのが、追いかけ質問です。導入の質問をすると、それに対する答えが返ってきますよね。例えば
質問?
「どちらの出身ですか?」
回答
「大阪です」
質問?
「大阪といえば、たこ焼きですよね。どのたこ焼き屋さんがお勧めですか?」
というように、まずは質問を2回することを意識してみましょう。ただし、「どちらの出身ですか?」「趣味は何ですか?」「週末は何をやっていますか?」と圧迫面接のような質問の連打はNGです。導入の質問の後は、返ってきた答えを深掘りして質問を繰り返しながら、共通点を見つけましょう。
“ど”を活用する“ど力”をすれば、共通点を見つけやすくなり質問力が鍛えられますね。
ビジネスシーンで意識すべきといわれる5W1Hはすべて“ど”で始められます。一般的に、オープンクエスチョンの方が話は弾みやすいといわれますから、「どんな」や「どこ」「どう」に、「思いますか?」「お好きですか?」「お勧めですか?」を組み合わせれば、いくらでも質問が出てきて会話が続くはずです。
コミュニケーションの研究をしていると、人間も動物と同じで「この人は群れの一員かそうではないか」を常に判別していることに気づきます。一つでも多く共通点が見つかる人を同じ群れの一員だと認識するわけです。「私はあなたの敵ではない」と認識してもらうために、「ほら、こんなに共通点があるでしょ」とアピールできれば距離が近くなり、相手もあなたに興味・関心を持ち、それが商品への興味・関心につながります。
質問するときは、
ヒーローインタビューをする気持ちで
ヒーローインタビューを
雑談が苦手な人の定番、天気の話も追いかけ質問ができれば
NGではないということですね。
NGではないと
「暑いですね」で終わるのはNGですが、相手に「暑いですね」と言われたら、「暑いですね。私、かき氷が大好きで~」とひと言追加できればOKです。気兼ねすることなく、何でも質問すればいいと思います。相手は話したいと思っているので、よっぽどズレた質問でなければ問題ありません。
ヒーローインタビューでは相手を持ち上げますよね。ビジネスシーンの雑談でもヒーローインタビューをするような気持ちで、「それ面白いですね」「御社は素晴らしい業績を上げていらっしゃいますが、どんな秘訣があるんですか?」など、相手に花を持たせる質問をして気分良くなってもらいましょう。
雑談で盛り上がった話をSKYPCEのような名刺管理ツールに登録しておけば、
数年後の商談時だけでなく、異動等で担当が変わっても、
後任の担当者が助かるのではないでしょうか。
数年後の
後任の
雑談で得た情報を忘れないよう、名刺情報を管理するツールに情報を登録しておくというのはとても良いと思います。自分が話したことを覚えていてくれたら誰でもうれしいですから、前回の雑談で聞いた話を次に会った際の雑談で話題にすれば、相手の方に喜んでもらえるはずです。日本では、名刺によってコミュニケーションがはかどるという面はありますから、対面での営業活動が増えてきたこのタイミングで名刺管理を見直してみるのはいいかもしれません。
ただ、初めて会った人があまりにも自分について詳しいとかえって怖いと思われるかもしれません。その場合は、前任者の名刺情報を引き継いだから知っていることも併せて伝えた方がいいでしょう。
おしゃべりな人でも、ビジネスシーンの雑談は苦手だと答える人がいます。
このタイプの人は、プレゼンテーションで一方的なアピールに走りがちな気がします。
このタイプの
おそらくそうだと思います。他社との打ち合わせの際、まず会社紹介から始める方がいらっしゃいますが、なぜ相手との呼吸を合わせず自己アピールができるのか、いつも疑問に感じています。プレゼンテーションでも冒頭で延々と会社紹介する方がいますが、実はこれ、お客様に失礼ではないでしょうか。自分たちの悩みの解決に、その製品・サービスが役立つのかを知りたいお客様にとって、なかなか本題に入らず会社紹介を聞いているのは苦痛なはずです。プレゼンテーションも商談も、まずは相手が聞きたい情報を投げることから始めなければうまくいきません。相手が何を聞きたいのか、これに尽きます。
コミュニケーションはキャッチボールと同じですから、投げたボールをお客様が受け取ってくれなければ成立しません。どれだけ会社をアピールしても、製品の素晴らしさを語っても、剛速球を一方的にバンバン投げているのと同じです。そのボールを受ける相手は少しも気持ち良くありません。信頼関係は、もっと受け取りやすい緩いボールを投げて、「どうですか?」「そうですよね」と対話することで生まれます。皆さんも「俺の話を聞け」的なプレゼンテーションをしていないか、ぜひこの機会に見直してみてください。
弊社のプレゼンテーション資料ももれなく冒頭に会社紹介が入っていますから、
最初に会社紹介をしている社員が多いと思います。
最初に
ほとんどの企業がそうだと思います。しかし、お客様の多くは仕方なく聞いていらっしゃるのでは。プレゼンテーションは、「こんなことに悩んでいませんか?」「こんな問題ありますよね?」など、相手のニーズに合わせるのが基本です。会社紹介は、最後の1ページに追加するくらいで十分だと思います。冒頭の2~3ページを会社紹介に使ってしまうのは、できれば避けた方がいいでしょう。私の生徒さんにも、商談やプレゼンテーションではアイスブレイクから入ることが大事だと指導しています。いきなり売る気満々で説明を始められたら、この人からは絶対に買いたくないと思って本音を語ってもらえない可能性も。本音を語ってもらうには、まずは雑談で相手との距離を縮めたり、同じ空気感をつくって場を暖めることが欠かせません。
「お客様のニーズに合わせる」のは、チラシやWebサイトにも必要なことだと思いました。
皆さんにも大量のセールスメールが届くと思いますが、多くは中身を見ることなく削除するか、そのまま放置しますよね。セールスメールの中身を見てもらうために重要なポイントは、商談やプレゼンテーションと同じで、お客様のニーズをつかんだ情報が掲載できるかどうかです。私もPRの仕事を経験したのでわかりますが、広報部門はどうしても自分たちの言いたいことを打ち出しがちになります。しかし、情報があふれている今の世の中、そのやり方で成果を出すのは難しくなっていますから、営業職と同様に広報部門の方も自らお客様のニーズをキャッチしていかなければ、他社との競争に勝ち残れません。少なくともタイトルや概要等がお客様のニーズではなく、自分たちの言いたいことだけになっていないか確認しましょう。
お客様のニーズをつかむために大事な共感力ですが、
一般的に男性は女性に比べて低いといわれています。
共感力が低いと感じている方が今から鍛えることは可能でしょうか?
一般的に
共感力が
共感力があれば仕事も家庭も、人間関係がとても楽になります。共感力を高めるトレーニングを紹介している書籍等もありますので、共感力が低いと感じている方にはお勧めです。一概に性別だけで分けることはできませんが、女性は相手の一瞬の表情から感情を読み取れる人が多いのに対し、男性は相手のちょっとした表情だけではわからない人が多いようです。そもそも男性は感情に対する向き合い方が女性とは異なり、怒り以外の感情を表したくない人が多い傾向にあります。おじさま世代の中には、感情を見せたり言葉にすることは、裸を見せるのと同じだとおっしゃる方もいるくらいです。
一方で、共感力の高い人は相手の気持ちがわかり過ぎる故に、目の前の人たちの表情を読み取り過ぎる傾向があります。表情からつまらなさそうだと感じれば、それが極度の緊張につながることも。共感力が低い人はトレーニングを受けて鍛える、顔色を読み過ぎてしまう人は、視覚や聴覚から得られる情報をある程度シャットダウンして堂々と話せるようにしましょう。これからの時代のコミュニケーションは、それぞれの強み弱みを補完していくことも必要なのかもしれません。
質問を続けることが
恥ずかしがり屋の克服にも
恥ずかしがり屋の
過度な緊張で失敗してしまう人にとって、
緊張につながる情報をシャットダウンするためには何が必要でしょうか。
緊張に
目の前の人の感情を読み過ぎてしまう人に必要なのは、鈍感力です。といっても鈍感になることは簡単ではありません。原因は、自分がどう見られているかを気にし過ぎることですから、相手への興味・関心が、どう見られているかを上回ればいいわけです。私もアメリカでトレーニングを受けるまで、相手にどう思われるかを気にして緊張してしまう性格でした。そんな私がアメリカで最初の修行先に選んだのが、大学内にある恥ずかしがり屋研究所「Shyness Research Institute」です。それくらい、恥ずかしがり屋で人見知り、人前でしゃべることが苦手でした。
積極的な人が多いアメリカでは、恥ずかしがり屋でいることが不利になる場面が多く、研究所では科学的な知見を用いて恥ずかしがり屋を克服するためのノウハウを提供しています。「君は目の前の鏡を見ているね」これは、私が教授から最初に言われた言葉です。「常に自分がどう見られているかを気にしている。それは、自分を良く見せたいと思っているナルシストだよ」と言われたことは今でも覚えています。
そこから、具体的にどうやって克服されたのですか。
雑談の基本「質問の実践」です。自分がどう見られているかを意識できないくらい相手に興味を持ち、「私の質問で気分良くなってもらうぞ!」という気持ちを込めてひたすら質問を続けました。一方的に質問責めにしているようで気が引けるかもしれませんが、人間は話を聞いてほしいと思っている生き物ですから、話しかけることに罪悪感を持つ必要はありません。自分が話しかけることで相手が喜んでくれていると思えば、相手から自分がどう見られているのか気にならなくなりました。
先ほども話題にしましたが、ヒーローインタビューをする気持ちになれば、「見られている意識」ではなく、「自分が相手を見る」ことに意識を集中しやすいと思います。この人はどういう人なんだろう、何を考えているんだろう、もっと話を聞いてあげようと意識して、相手の話を面白そうに聞きましょう。ヒーローインタビューといえば、私が最近研究しているのはWBC(World Baseball Classic)で侍ジャパンの監督だった栗山氏のリーダーシップです。
栗山氏のリーダーシップはとても話題になっていますね。
興味を持ったのは、優勝までの軌跡を追ったドキュメンタリー映画を見たことがきっかけです。見終わってすぐに、「この人は本当にすごい」と感じました。「あなたの正解は相手の正解ではない」など、発言がまさに令和のリーダーシップそのものです。「取りあえず話を聞く」「命令するよりも問いかける」等々、令和のリーダーに求められていることを実践されています。さらに、選手とのコミュニケーションについての発言で印象に残っているのが「永遠の片思いでいいと思っている」というひと言です。「この人が大好きで、この人のことを知りたい。そんな永遠の片思いでいい」とおっしゃっています。100万人に片思いをしたっていいんだと思わせてくれました。
WBCで大谷選手が自分らしさを出して結果を残せたのは、
監督が栗山氏だったことも影響している気がします。
監督が
そうかもしれませんね。日本企業がイノベーションを起こしてグローバルに戦える競争力を持つためには、優秀な人を集めたドリームチームづくりが欠かせません。今後、指導者に求められるのは、栗山氏のようなコミュニケーション力だと思います。
日本では、恐怖心を植えつける「詰めの文化」が根強く残っていますが、今の時代、相手が恐怖を感じた時点でパワハラ認定されて即アウトです。恐怖を喚起できなければ「詰め」は機能しませんから、後は褒めて育てるしかありません。ただし、褒めてばかりでは成長できないため、指摘やアドバイスも必要です。
最後に読者にメッセージをお願いします。
私がたくさんの方とお会いして気づいたのは、皆さん「話したい」「自分の話を聞いてほしい」と思っているということです。そのため、お客様に対しても「あなたの話を聞きますよ」という姿勢でいれば、喜んで話をしてくれると思います。人間はつながりを求める生き物ですから、幸福感が得られるのは「自分のことを理解してくれた」「一人じゃない」と思えたときです。仕事でもプライベートでも雑談は必ず皆さんの役に立ちます。ぜひ雑談力を磨いてください。
(「SKYPCE NEWS vol.8」 2023年9月掲載 / 2023年7月取材)